ボストン交響楽団」タグアーカイブ

「厚木からの長い道のり」~小澤征爾と大西順子、そして村上春樹


今年のノーベル文学賞も決まりましたが、英国などのブックメーカー(賭け屋)の予想でも一番人気であった村上春樹は、またしても受賞を逃しました。ここ数年は最有力候補の一人ですので、また来年に期待したいものです。

ノーベル文学賞はカナダ女性作家アリス・マンローさん (MSN産経ニュース)

その村上春樹の仲介で、指揮者の小澤征爾とジャズ・ピアニストの大西順子との共演が実現したことは、以前に東京JAZZと女性ピアニスト(1)で触れました。

満場のスタンディング・オベーション、
奇跡の『ラプソディ・イン・ブルー』に、拍手はいつまでも鳴り止まなかった。
ClassicとJazz、小澤征爾と大西順子、そして村上春樹。
その夜、それぞれの魂が響きあい、困難を乗り越え、
ナチュラルな喜びに満ちた音楽が誕生したのだ。
小さなジャズ・クラブからサイトウ・キネン・オーケストラとのステージへ。
良き音楽のために、道は続いて行く…..

出典:季刊誌「考える人」2013年秋号

この文章は季刊誌「考える人」に掲載された16ページに渡る村上春樹の寄稿、「厚木からの長い道のり~小澤征爾が大西順子と共演した『ラプソディ・イン・ブルー』(サイトウ・キネン・フェスティバル松本Gig 2013年9月6日)」の冒頭ページの文章です。

考える人 2013年 11月号 [雑誌]

新品価格
¥1,400から
(2013/11/6 15:02時点)


この寄稿の中では、熱烈な大西順子のファンである村上春樹によって、彼女のエピソードやその音楽を愛する思いが綴られています。その中で特に強調しているのは、

僕が大西順子の音楽について素晴らしいと思うところはいくつもある。しかしいちばん強く惹かれるのは、その独自のリズム感覚かも知れない。

といったことです。そしてこの寄稿のタイトルでもある「厚木からの長い道のり」のエピソードについては、

僕は一度、小澤征爾さんを誘って、都内のジャズクラブに彼女の演奏を聴きに行ったことがあり、そのときは「いや、すごい音楽家だね」と感心されていました。そして「彼女の最後のライブが厚木の小さなジャズクラブであるんですよ」という話をしたとき、「じゃあ、おれも行く」ということになりました。そして大西さんが最後に感無量のおももちで「残念ながら、今夜をもって引退します」と聴衆の前でしみじみ話しているときに、突然すくっと立ち上がって「おれは反対だ!」と叫ぶという異例の事態、というかハプニングになったわけです。

といった話が最初にあったようです。そして9月6日のフェスティバルにおける大西順子(トリオ)と小澤征爾指揮のサイトウ・キネン・オーケストラによる「ラプソディ・イン・ブルー」の共演に辿り着いた訳です。彼女にとっては一日だけの復活ライブでもありました。

サイトウ・キネン・フェスバル松本のホームページには、その経緯について小澤征爾と村上春樹の二人による文章が掲載されています。

なぜ “ラプソディー・イン・ブルー”を大西さんとやるか、について (小澤征爾)

信じられない展開 (村上春樹)

そんな「世界のオザワ」や「世界のハルキ」によって賞賛されている大西順子の最後となっているアルバムは「Baroque」(2010年8月米国Verbよりリリース)です。このアルバムのエピソードの公式映像があります。

大西順子 / 『バロック』 EPK エピソード1:バンド
http://www.youtube.com/watch?v=XjeVinsoiYY (YouTube)

大西順子 / 『バロック』EPK エピソード2 :アルバム
http://www.youtube.com/watch?v=zity_Grzcu4 (YouTube)

大西順子 / 『バロック』 EPK エピソード3 :大西順子
http://www.youtube.com/watch?v=xJcHe6fRtdE (YouTube)

Baroque

新品価格
¥786から
(2013/11/6 15:05時点)

大西順子は1989年にバークリー音楽大学を卒業しています。

SEIJI OZAWA HALL

SEIJI OZAWA HALL(著作権者:Daderot.さん、ライセンス:CC BY-SA 3.0、http://ja.wikipedia.org/wiki/タングルウッド)

一方の小澤征爾は1973年に38歳でボストン交響楽団(The Boston Symphony Orchestra、略称:BSO、アメリカ5大オーケストラのひとつ)の音楽監督に就任しています。そして2002年に退任するまでの30年近くも務めています。一人の指揮者がこれだけ長い間同じオーケストラの音楽監督を務めた例は極めて異例のようです。
毎年夏にBSO主催でボストン近郊の町タングルウッド(Tanglewood)で開かれる音楽祭(五嶋みどりのタングルウッドの奇跡はここでの出来事です)は有名です。そこには「SEIJI OZAWA HALL」も建てられています。

大西順子がボストン時代に、一人の聴衆として小澤征爾の指揮するBSOの公演を観たか否かは定かではありませんが、充分有り得る話です。

現地では日系アメリカ人の「Seiji Ozawa」として誤った紹介もされることがあるようですが、ボストンに深く根ざした一人だと思います。先日、ボストン・レッドソックスがワールドシリーズを制覇した時は、熱狂的なレッドソックス・ファンの一人として、フェンウェイ・パーク球場の観客席に小澤征爾の姿があったようです。
そんな小澤征爾のBSO時代のドキュメンタリー映像があります。

小澤征爾 わが街ボストン 1/7
http://www.youtube.com/watch?v=lckbT9M4zTQ (YouTube)

「サイトウ・キネン・オーケストラ」は小澤征爾の師である桐朋学園創立者の一人である斎藤秀雄の門下生を中心に、毎年8~9月に「サイトウ・キネン・フェスティバル松本」で編成されるオーケストラです。この、夏の終わり頃に開かれるイベントは日本版「タングルウッド音楽祭」の趣も感じます。

Seiji Ozawa – SAITO-KINEN K136
http://www.youtube.com/watch?v=pph8EIsc0q0 (YouTube)

復活のセレナード~小澤征爾&サイトウ・キネン・オーケストラ・ベスト・セレクション

新品価格
¥1,681から
(2013/11/6 15:06時点)

村上春樹の小説には必ずと云っていい程、一つの楽曲が印象的なモチーフとして使われています。当ブログでは、以前、ノルウェイの森巡礼の年を紹介しました。音楽に造詣の深い村上春樹の仲立ちによって実現した「ラプソディ・イン・ブルー」ですが、機会があればTVの再放送(9月30日にNHK-BSプレミアにて「小澤征爾 復帰の夏 ~サイトウキネンフェスティバル松本2013~」として放送済み)やCDなどで聴きたいものです。

Boston POPs

Boston Pops Symphony Hall

 

「ラプソディ・イン・ブルー」については、こちらも有名な「ボストン・ポップス・オーケストラBoston Pops Orchestra)」による名演があります。このオーケストラはBSOの団員が夏のオフシーズンに編成を変えたもので、基本的なメンバーは同じようです。

 

 

 

ラプソディ・イン・ブルー1/4 フィードラー
http://www.youtube.com/watch?v=D-WVRA-Vfn4 (YouTube)

ラプソディー・イン・ブルー~ガーシュウィン・アルバム

新品価格
¥1,806から
(2013/11/6 15:07時点)

冬のボストン「ある愛の詩」(2)


冬のボストン「ある愛の詩」(1)の続き

前回(1)で紹介した「ジョシュア・レッドマン」は、2010年の「東京Jazz」だけでなく、2003年の「東京Jazz」にも「JOSHUA REDMAN ELASTIC BAND」で出演しています。2003年の開催は、真夏の味の素スタジアム(調布市)が舞台で、炎天下で行われました。
2010年はドラム、ベース、サックスの標準的なトリオでしたが、2003年はドラム、オルガン、サックスのオルガン・トリオの編成です。来日メンバーとドラマーが異なりますが、本来のドラムである「ブライアン・ブレイド(Brian Blade, 1970年 – )」、キーボード(オルガン)の「サム・ヤエル(Sam Yahel)」とのトリオによるライブ映像です。
Joshua Redman|Jazz Crimes (Live)
http://www.youtube.com/watch?v=1ICJUFOJa2g (YouTube)

ライブ映像の曲を含むアルバムは「Joshua Redman|Elastic」があります。

Elastic

新品価格
¥759から
(2013/1/15 16:14時点)


ジョシュア・レッドマンは西海岸のカリフォルニア州バークレイ(地名)の生まれで、父親もジャズサックス奏者でした。その彼が名門ハーバード大学を優秀な成績で卒業しながら法律家の道を選ばなかったのは、卒業後に出場したセロニアス・モンク・コンペティションでの優勝だったと言えます。

ハーバード大学出身の日本人といえば、先の「ある愛の詩」のジェニファーと同じラドクリフ大を経て、経済学部を卒業した皇太子妃雅子様がいます。
しかし、昨今の日本人留学生は大学院を別にすると極めて少ないようで、2010年度の統計だと在籍者6人との情報があります。

その難関のハーバード大学を2011年に卒業した、日本人の音楽家がいます。物理学科を卒業したヴァイオリニスト「五嶋龍(ごとう りゅう、1988年 – )」です。ニューヨーク生まれの米国籍だと思います。

有名なヴァイオリンの名曲「サラサーテ|ツィゴイネルワイゼン」の映像があります。高校を既に卒業し、ハーバード大学に合格していた時期のツアー中の演奏だと思われます。

Ryu Goto|Zigeunerweisen op.20
http://www.youtube.com/watch?v=iGdQsWL9QcY (YouTube)

先日、ゴールドディスク大賞「クラシック・アルバム・オブ・ザ・イヤー」を受賞した、東京藝大中退で「情熱大陸」のテーマ曲で知られる、怪しげな某ヴァイオリン弾きと、YouTubeで聞き比べるのも面白いです。

私事になりまりますが、「サラサーテ|ツィゴイネルワイゼン」は中学生の時初めて買ったクラシックのレコード(45回転のドーナツ盤)でした。

大学を卒業し本格的な演奏活動を開始した、五嶋龍の最新アルバム「五嶋龍|リサイタル」(2012年)があります。昨年の3月にNYカーネギーホールで好評を博した初演の内容をスタジオ録音したものです。

リサイタル

新品価格
¥2,660から
(2013/1/15 16:15時点)


先程のジョシュア・レッドマンとジャンルは違いますが、二人に共通して感じることは「何故か模範演奏を聴いているようで、面白みに欠ける気がする」と思うのは偏見でしょうか?

その姉(異父姉)はヴァイオリニスト「五嶋みどり(1971年 – )」です。有名な「タングルウッドの奇跡」と呼ばれた14歳の時の映像があります。

五嶋みどり|タングルウッドの奇跡
http://www.youtube.com/watch?v=04pXykKsO_k (YouTube)

タングルウッドの奇跡は、アメリカの教科書にも載った逸話です。
マサチューセッツ州タングルウッドで毎年夏に開かれる、ボストン交響楽団主催の「タングルウッド音楽祭」での出来事です。彼女は演奏中にヴァイオリンのE弦を2回切ります。その度、楽団員のヴァイオリンを借りて、見事に演奏を完遂しました。
彼女のヴァイオリンは3/4サイズですが、楽団員から借りたヴァイオリンは何れも1周り大きい4/4サイズと異なるサイズだったそうです。
演奏完了後、指揮者のレナード・バーンスタイン(Leonard Bernstein, 1918年 – 1990年)に抱きしめられる様子は、何とも微笑ましいものがあります。

その二人を英才教育で育てたのが、母親の「五嶋節(ごとう せつ、1949年 – )」です。彼女の著書に、「天才の育て方 (講談社現代新書)」があります。
これから「天才」を育てたい方は、読まれたらいかがでしょうか?

「天才」の育て方 (講談社現代新書)

新品価格
¥735から
(2013/1/15 16:16時点)


「天才」と「神童」の二人共ジュリアード音楽院プレスクールでヴァイオリンの英才教育を受けていますが、大学は音楽以外の分野を自らの意志で選んでいます。姉のみどりはニュヨーク大学で心理学を学び、更に大学院も修了しています。

最後に一つだけ謎があります。三人共通の「五嶋」という姓ですが、元々は姉のみどりの父親の姓です。節は娘のみどりを連れてニューヨークに渡った後で離婚しています。「五嶋」は再婚相手である龍の父親の姓でも、節の旧姓でもありません。